部落問題の解決は国民的課題であるとうたった「同和対策審議会答申」が出されてから、すでに21年の歳月が経過しました。しかし、東日本に散在する被差別部落は、部落解放運動の前進にもかかわらず、強い融和的な土壌のもとで環境改善すら手付かずの地区が多く、部落問題の解決にはほど遠い現状にあると言えます。
結婚や就職、教育現場における差別事件もあとを絶たず、部落問題の基礎的調査すらも行われていない地区が多数存在しています。また、被差別部落の形態、差別の有り様も、しばしば西日本との違いが指摘されながらも、部落問題を基本にすえた研究活動は不充分な現状にあります。
東日本部落解放研究所は、こうした現状を踏まえ、被差別部落の生成、歴史、民俗、文化など生活領域全般における資料の発掘、研究、および教育活動を恒久的研究機関としておこない、部落解放運動と連携を図りながら、部落完全解放へ向けて寄与するために設立するものです。
東日本部落解放研究所の設立構想は、10数年にわたる部落解放東日本研究集会の積み重ねによって、理論的にも内容的にも東日本各地の被差別部落にかかわる課題が明らかにされるなかで、醸成されてきました。
昨1985年以来、研究集会にかかわってきた研究者を中心に、研究所の形態や運営について討議を重ねてきました。
まず、本年2月と5月に「東日本における部落問題に関する研究者懇談会」を開催しました。第1回は、新潟の部落史研究に関する研究報告と、運動側からの問題提起がなされ、第2回は、近代初頭の関東の部落資料について研究報告を受けました。
その後、設立に向けた討議を深め、研究所設立世話人準備会の開催を経て、世話人会が発足しました。そして、世話人会において研究所の機構、規約、人事等、設立に必要な一切の事項について協議を進めてきました。
今、多くの方々から賛同の意思表示がされ、今秋の設立にむけて拡がりをみせています。
東日本部落解放研究所は、東日本における部落問題研究の蓄積の浅さを克服するために、共同研究を積極的に推進していきます。全国的な部落問題研究の最近の成果を踏まえ、部落差別の歴史や現状を解明し、被差別の文化を掘り起こすとともに更に広い視野で研究活動を展開していきます。
とくに、国内における様々な社会的差別やアジアをはじめとする第三世界の抱えている問題、あるいは諸外国のマイノリティの問題などとともに部落の位相を考え、また部落問題に根をおろした視点から、日本の歴史や社会構造に光を当て、新しい文化・思想の創造をめざすものであります。
設立にともない考えられる主な研究、事業内容としては、これまで研究の浅い関東甲信越、東北地方などの部落問題全般におよぶ調査・研究をはじめ、同和教育に関する研究や教材づくり、住民意識の調査分析や社会教育・啓発に関する研究、各部落の芸能・文化の発掘・継承などを精力的に進めていきます。
研究活動の形態としては、会員による自発的な調査研究を援助し、研究プロジェクトを組織するほか、委託研究、研究討論会の開催、研究紀要の発行、講座・シンポジュウムの開催、研究所ニュースの発行を計画しています。また、学習会・研修会への講師紹介、各地の部落解放研究所との交流などを行います。
東日本部落解放研究所は、部落問題研究を志す、東日本の多くの研究者を結集し、被差別部落の人々や解放運動家をはじめ、各階各層の人々の協力を得て、部落問題の解明と差別の完全撤廃に力を尽くすものです。
以上をもって、設立の趣意といたします。
1986年10月18日